うれしい
よみがえる旧式浄水場 須坂市が復活へ
2006年10月20日
80年前の大正末期に建設され、取り壊しを免れていた浄水場を、須坂市が「現役復帰」させる検討に入った。人口減などで水の需要も減り、新型浄水場の運営コストが重荷になってきた。しかも「旧式」は微生物の力を借りて水の臭みなどを取り除くことから、薬品を使う新型浄水場より「安くておいしい水」が期待できるという。昔の浄水施設の復活は全国的にも珍しく、財政難の地方自治体による「妙手」としても注目を集めそうだ。(浜田陽太郎)
復活するのは1926(大正15)年に完成した「坂田浄水場」。底に砂を敷き詰めた濾過(ろ・か)池に、市内を流れる灰野川の伏流水を引き込み、砂の中に生息する微生物などの働きで汚れを分解する。これは「緩速濾過」と呼ばれる方法で、1日あたり3400立方メートルを処理する能力があった。
急速な人口増が続くことを見込んで、市も約27億6千万円を負担した県の豊丘ダムが完成したのに伴い、1日9500立方メートルの処理能力を持つ最新式の「塩野浄水場」(事業費28億円)が96年に稼働。「坂田浄水場」は10年間、使用を休止していた。
だが人口は、冬季オリンピックのあった98年の約5万4800人をピークに、05年までに1100人以上減った。96年に4万2千立方メートルと設定した1日当たりの計画給水量も、04年には3万2600立方メートルに下方修正された。「塩野」1個分の需要が減った計算だ。
「塩野」では年間、ポンプで水をくみ上げるだけで電気代が700万円、濁りを沈殿させる「急速濾過」に使う薬品代に290万円、沈殿した泥を産廃処理するのに120万円かかる。さらに今年度予算では泥を集める機械の修理費に420万円も計上。税収が減っている市にとって軽い負担ではない。
一方、「坂田」はこうした運営費がほとんどかからず、現役復帰によって水道料金引き下げの期待も出てくる。浄水場すべてが緩速濾過方式の上田市の場合、1立方メートル当たりの供給単価は須坂市に比べて30円以上安いという。三木正夫市長は「人口が減少する状況では、費用対効果を考えるべきだ」と話す。
「坂田」が稼働を始めれば、「塩野」はトラブルがあった場合の「バックアップ用として維持することも選択肢」(市水道局)という。水道行政を所管する厚生労働省は「急速濾過の施設を休止し、緩速濾過を復活させる例は聞いたことがない」(水道課)としている。
市は、緩速濾過(生物浄化法)の第一人者である中本信忠・信大教授に依頼し、「復活」に必要な作業の調査に乗り出す。中本教授は「財政難に直面した市が、業者任せにせず自ら考えて、緩速濾過の良さに気づいた意義は大きい。こうした自治体は今後、増えていくのではないか」と評価している。
坂田浄水場の開設80年周年を記念し、市は20日午後2時から、市シルキーホールで中本教授の講演会などを開き、緩速濾過の意義などを市民に伝えることにしている。