漁業補償1人1000円!? それはないでしょ小国川の価値
山形県が漁業補償案を提示。110万円!?
小国川漁協組合員は約1100人。一人あたり1000円!?
組合員の皆さん。これまで先祖代々、永々と受け継がれてきた豊かな清流でのアユ漁の環境を1000円で売るんですか?あまりにもバカバカしい話です。「川の力を失ったら漁業振興にならない」とダム反対を貫いてきた元沼沢組合長の志を思い出してください。
科学的に、赤倉温泉流域に県がつくった堰を取払い、土砂を取り除く等、河道改修による事業こそ、治水を内水被害、外水被害ともにかなえ、流域環境を守り、更に老朽化した赤倉温泉を再生する最後ともいえる絶好のチャンスなのです。
ダムをつくったら、全国の事例の中では穴が小さい穴あきダムの穴の閉塞の懸念があります。穴が詰まったらダムが機能しないことになります。これは県の新しいプランでも以下、懸念は残ったままです。
最上小国川ダムの常用洪水吐は1.7B×1.6Hと小さく、穴づまりの可能性が大きい。そのことを認識して多重的な対策案を実施するとしたのであろうが、その効果には疑問が多い。
①の砂防堰堤の活用については、すべての流木を完全に捕捉することが不可能なうえ、砂防堰堤の設計では上部に流木捕捉工を設置することを想定しておらず、流木を捕捉することにより砂防堰堤自体が破壊される恐れがある。
②の鋼製流木止めの設置については、流木止めより下流で発生する流木はそのままであり、上流からくる流木を完全に捕捉することは不可能である。
③の仮締切堤の活用については、巨礫の捕捉工としての効果は期待できても、浮遊して流下する流木の捕捉は期待できない。
④の鋼製スクリーンの設置については、他の穴あきダムでも採用されているが、スクリーンの前面に巨礫が堆積すれば穴が詰まったと同じ状態になる。スクリーンを設置することにより、それがなければ流下する土石まで捕捉されることになり、穴づまりの可能性を大きくしかねない。
⑤の可動式穴づまり防止装置(維持管理板)の設置については、自然放流の穴あきダムに流量調節ゲートをつけたことになり、どのように操作するかが問題になる。穴が閉塞した場合、ゲートを上げることで堆積物が流下するとは限らない。
以上のように、ここに示された対策はいわば「思いつき」程度のもので、穴づまりの懸念を解消するものではない。
また環境の影響については川那部浩也先生はじめ4名の研究者によって、これまで「環境にやさしい」としてきた県の見解だが、その見解を導きだしたました。
最上小国川流域環境協議会資料の問題点
1)調査の目的や方法が吟味されていない
2)限定的な調査データから逸脱した結論が導かれている。
3)各調査に結びつきがない
4)アユそのものに関する調査や検討が全く存在しない。
が指摘されています。
これに対して県は無視したままで 何の反論もないままです。
更に老朽化して、今でも護岸の脆弱性が地元の旅館からも指摘されている赤倉温泉。
この地域の実態を述べます。
赤倉温泉流域は、県がつくった堰によって土砂堆積しています。
その堰を取り払って土砂を取り除けばダムで止めると同様の水が流せるようになるのです。
「温泉湯脈に影響するから河床を触れる工事はできない」と県は主張してきましたが温泉開発の専門家は、温泉に影響を与えないように工事をすることはいかようにも可能。メカニズムを解明しながら影響を回避しつつ工事を行う事は常套手段であり、県は調査といっているが、十分にメカニズムを解明することなく、表面的に「影響ある」というところだけで止めてしまっていたのではないか。これは実際に県の調査に携わった温泉開発、研究者、川辺孝幸先生が指摘していることです。
それに、中心の旅館(阿部旅館)は倒産し、1年間営業停止しカビがはえてきたような状態。周辺の旅館は老朽化している状況であり、河道改修を通じて、温泉旅館群のダウンサイジング、リノベーションをはかり、温泉街そのものを再生させる。それをやるには、最後の絶好の機会といえる。と、都市計画の専門家、国土交通省の元幹部からも指摘されています。
ダムよりも赤倉温泉の河道改修こそ、治水をかなえ、清流を守り、そして赤倉温泉を改修・再生する最後の絶好のチャンスなのです。
みなさん舟形、最上町のお知り合いにその真実を伝えてください。
議会報告パドルVOL7作成しました。解説。
草島進一議会報告9月1日号 パドル7を作成しました。
旧市内では、鶴岡タイムス9月1日号、山形新聞では来週火曜日ぐらいに織り込まれますのでぜひご一読いただければと思います。 紙面では限りがあり、とても伝えきれないところがありますので若干の解説をさせていただきます。
人口減少で消滅の危機! 人も自然も共生する希望ある持続可能な鶴岡・山形を目指して!
冒頭の文章の中、人口減少の項目。大変な間違い。鶴岡市では現13万5523人。2040年には88万132人、となっています。すいません。8万8132人の間違いです。「万」のいれる位置違いで大変誤解を生むことになってしまいました。訂正し、おわび申し上げます。
私達はどこに向かっているのか。安部政権は経済政策アベノミクスを強調しひたすら経済成長を強調します。大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略。の3本の矢。その実態がどうなのか。 大胆な金融政策 金融緩和でデフレ脱却できたのかといえばそうはいえません。 このままグローバル資本主義を維持しようとすれば「雇用なき経済成長」という悪夢を見続けなければならない。又、金融緩和をしてもデフレ脱却はできない。量的緩和政策は実物経済に反映されず、試算価値を上昇させてバブルをもたらすだけ
。一方、公共投資を増やす積極財政政策は、過剰設備を維持するために固定資本減耗を一層膨らますことになる。ーー アベノミクスのごとく過剰な金融緩和と財政出動、さらに規制緩和によって成長を追い求めることは、危機を加速させるだけであり、バブル崩壊と過剰設備によって国民の賃金はさらに削減されてしまうことになる。 (水野和夫 資本主義の終焉と歴史の危機 より) 水野先生はこの著書の中で資本主義は終焉にむかい、「脱成長」のモデルの必要性を説かれています。「脱成長=衰退に向かうことではない。と説きつつ。
急激な人口減少に向かう今、これまでつくってきた公共施設を如何に維持するか。人口増を見越してつくった水道、下水道施設を筆頭に破綻をいかに回避するかなど、大きな問題がたちはだかっています。
経済、雇用を考えても「如何に持続可能な地域社会をつくっていくか」 が課題です。
私は、ダム問題など公共事業の不毛な対立を如何に回避して対話をするか、という事も念頭に悩み続け、出会ったのが「持続可能な社会を如何につくるか」を議論しているスウェーデン社会、そしてその解決の指針であるナチュラルステップの持続可能な社会の定理でした。科学的な原則の下で徹底的に未来を話し合い、コンセンサスをとって新しい社会システムを生み出していくスウェーデンの社会。
それを導く「持続可能な社会」の基軸となったのが環境NGO ナチュラルステップの提示する「持続可能な社会の定義」です。
小児がん研究の博士だったカールヘンリクロベールを筆頭に40人もの科学者がコンセンサスしてつくりあげた定義です。 また、「人々の基本的なニーズを妨げない」の基本的ニーズ(human fundamental needs はチリの経済学者マンフレッド・マックスニーフによって定義づけられた 定義です。ナチュラルステップについては、このコンセプト自体をスウェーデン国王も支持し、スウェーデンの全戸に配布されたものです。 カールヘンリクロベール博士とナチュラルステップについては以下、ブループラネット賞受賞講演の際の講演録があります。興味をお持ちになった方はぜひお読みください。
http://www.af-info.or.jp/blueplanet/doc/lect/2000lect-j-robert.pdf 私は、2008年のエコ自治体会議でカールヘンリクロベール博士、マンフレッドマックスニーフ博士にお会いして講演を聞き情報交換をさせていただいています。その講演の様子はビデオ収録しており、今後、私のHP上でも公開させていただきたいと思います。私は、映画監督 鎌仲ひとみさんと一緒に2008年スウェーデンヘルシンボリで開催された「エコ自治体世界会議」に参加しました。 その取材からはじまり、日本の祝島の原発開発の現場の矛盾と、スウェーデン社会の持続可能な社会のコンセプトを対比して描いたのが映画「ミツバチの羽音と地球の回転」(鎌仲ひとみ監督)です。
http://888earth.net/888tv.html 現在、スウェーデン国内の85の自治体がネットワークに加盟し、更に当時はカナダ・ウィスラー市の市長をはじめ、イタリア、アフリカなどからもその会議に参加者がいました。そこに参加する自治体職員や議員らが「政策立案の際に迷ったときにはこの条件に戻る。」このシステム条件は羅針盤のようにはたらいている。と話していました。
4つのシステム条件 1)地殻から掘り出した物質の濃度が増え続けない(枯渇性資源・化石燃料 にたよらない)
2)人間が作り出す物質の濃度が増え続けない(科学物質、プラスチック依存か放射能汚染のない社会
3)自然が物理的な方法で劣化しない(生物多様性の尊重)
4)人々が満たそうとする基本的なニーズを妨げない 9つの基本的なニーズ。=生命維持 愛情 保護 理解 自由 参加 創造 アイデンティティ 休暇 こうした「持続可能な社会」の定義は、以下、ハーマンデイリー博士の3原則 もあります。 ーーーーーーーーーーーーーー ハーマンデイリーの三原則 "再生可能な資源"の持続可能な利用の速度は, その供給源の再生速度を超えてはならない. "再生不可能な資源"の持続可能な利用の速度は, 持続可能なペースで利用する再生可能な資源へ転換する速度を越えてはならない. "汚染物質"の持続可能な排出速度は, 環境がそうした汚染物質を循環し, 吸収し, 無害化できる速度を越えてはならない. 『成長の限界 人類の選択』より引用 ハーマン デイリー (1938生-, アメリカ, エコロジー経済学者) (Herman Daly 1938-, U.S.A ) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー こうした物理的真理からうみだされたものと、環境的、社会的要素などを組み合わせたものがナチュラルステップの持続可能な社会の定義です。
こうした定義は、ほぼ20年前、リオの地球サミットで明確化され、アジェンダ21という自治体の指針も作られ先進諸国では常識でした。 しかし、目先の経済を重視する日本の政治はこれを軽んじてきました。 鶴岡、庄内、山形県は、自然資源に富む大変豊かなところです。しかしながら、自然が価値化されることがない中で、多くの自然を失ってきました。 私の政治の原点でもある水の問題「地下水100%の水道水がダム水に切り替わる (2001年10月)ことは、地下にいる無数の微生物の働きによって無償で良質の水をつくってくれるという生態系サービスを手放し、人間の科学でおこなう薬品処理の水に変えるということでした。今、水の価値観が変わり、地下水からくみ上げる水をいれたペットボトルの水は500MLで100円以上。ガソリンより高く売られ、水道料金と比べると800倍から1000倍ということになります。人口減少が進む今、55年調査当時25万トンの持続性補給量があり、5万7千トンの採水ができるという地下水盆(地下水がたまるプール)をもつ鶴岡市の水は健在であり、改めてその価値を踏まえたいと考えます。
今後の人口減少にともない、水道事業、下水道事業、道路、都市計画、公共施設、あらゆる社会資本を見直さなければなりません。昨年、先駆的にその問題に取り組む神奈川県秦野市を調査視察しました。秦野市では公共施設白書がつくられ、利用者数、頻度などを調査し、結果的に市民一人あたりが担う面積が計算されていました。人口が減るとその面積が拡大するため、維持していくことが難しいと試算され、そのために新たな建設物は「スケルトンインフィル」という、学校を建てるんだけれども途中から老人福祉センターに変えることができるといった方式をとるなど明確化されていました。 こうした公共施設の適正化は今年度から国も指針を示し、各自治体が見通しを示すことが促されています。
置賜地域では、持続可能な社会を見据えて目指すべきは、「エネルギー、食、ケアの自給圏ではないか。」と置賜自給圏構想を立ち上げました。これは評価すべき構想であると思います。 また、合意形成の手法も新しい方策がとられています。ワークショップ方式は当たり前ですが、年間100回などということは当たり前、とことん話合って、たとえば文化会館などでいえば完成のときは文化をはぐくむ市民の輪が完成している。いった事が茅野市など、先進自治体でおこなわれています。 対立を超えて、中長期的な視点をもって、その社会的な投資が、如何に持続可能な地域に貢献できるか。というとことをしっかりと対話する事が普通におこなわれる社会でなければならないと思います。 それが小国川ダム問題一つとっても本質的な議論ができていない。真実が話し合われていないという状況が続いているのです。こうした矛盾を打破し、 真っ当な持続可能な地域社会づくりができるように、議会でも議論を深めていきたいと考えています。 それと、産業構造も人口減少社会に向かう中で変わっていかねばならない。 20世紀型の集中メインフレーム型の産業構造から、地域分散ネットワーク型の産業に変えていかねばならないということです。
人口が増える時代では、20世紀型のやり方でもうまくいきました。規模を保ためにスクラップアンドビルドでよかった。でも人口が減る時代には、そうではない。人口が増えるから規模ではなく価値が重要といわれています。 持続可能な社会を実現させるためには、新しい環境技術、再生可能エネルギーの開発、建築物の高効率化、など様々なイノベーションが必要であり、そこに新たな新たな経済の道があります。
建築では大規模木造CLTの建築物であったり、パッシブソーラー等 高効率化、高断熱、太陽熱、太陽光の活用であったり、ドイツ、スウェーデンあたりと比べると相当遅れており、伸び幅は十分にあると考えるのです。 現在の日本社会の病理を如何に乗り越え、希望ある地域社会をつくりだすか。それを念頭に、現在抱える問題と私自身が研究している目指すべき持続可能な社会のコンセプトを述べさせていただきました。方策的には里山資本主義、置賜でおこなわれはじめた自給圏構想がその一つ一つであり、更に私達は英知を結集して持続可能な社会への道を探っていかねばならないと考えています。
議会報告では紙面として限りがあり、最も大事な冒頭の問題提起が、大変消化不良という感じがしており大変恐縮です。
「ひきこもり対策については、訪問から中間的就労支援など、経験値をもつ NPOとの恊働を、NPOを支援のプロとして認めて事業をはじめてはどうか。和歌山県などでは、福祉施設の運営委託のようなかたちでひきこもり支援がはじまっているなどの事例を紹介しながら議論した結果としてはじまった事業であります。
今年度も4月冒頭から議論させていただいていますが、市町村との連携、また、周知ができていないなどの課題があり、紙面を通じて紹介させていただきました。
2面目、共生型デイサービスについては、昨年度、子供若者政策特別委員会での委員会提案にも盛り込まれた共生型デイを支援する仕組みについて、2回の講演等を通じ、実現するための「基準該当」事業を如何に県として認めていくかが課題だと思っています。講演動画は HPに貼付けておりますのでご覧下さい。阪井さんの講演はご自分の人生として、大規模施設に限界を感じ、共生型を選んだというライフストーリーをお話いただいており、大変感動的です。 志麻さんの講演は制度面について、市議会議員だったときの体験も含め、富山県の政策のてお話いただいております。
2面の下段 憲法については、特に立憲主義について述べさせていただいております。囲みが小さめになって読みにくく、恐縮です。法律は、個人の自由を国が制限して社会秩序を守りますが、憲法は国民が国家権力を縛る道具です。多数決でも変えてはならない人権の尊重などの価値を前もって憲法の中に書き込み、民主的に(多数決など)正当性をもった国家権力であっても拘束するというのが近代立憲主義です。 これは実に重要な事であると考えています。「憲法はそもそも国民が統治権力を縛る道具である」このことは中学、高校の政治経済学でもあまりはっきりとつたえられていない感があります。 今、改憲を唱える自民党は憲法で国民を縛ろうとしています。立憲主義の本質を破壊しようとしています。 参考に、 憲法学者の伊藤真先生のウェブサイトや 以下、「憲八おじさんとタマ」アニメ等もぜひご覧頂きたいと思います。 https://www.youtube.com/watch?v=1sMvl8sD3no https://www.youtube.com/watch?v=DueYPXbJsUk ここまで前段の2ページまで解説させていただきました。 後半はまた述べさせていただきます。 8月29日 草島
敗戦の日。平和、民主主義を思う。
以下、朝日新聞の天声人語より。
▼山田青年は1945年8月14日の日記に、「個」を潰しに潰してきた日本の社会に対する痛恨の念を記している。出る杭を打ち、変わり者を追い払う。日本人は「全く独立独特の筋金の入らないドングリの大群」のようになったと嘆いた▼全体主義が支配した戦時中のこととして読み流すことができない。あなた方もドングリになりなさい。そんなささやきが、昨今のこの社会のそこかしこでも執拗(しつよう)に繰り返されているのではないかと危ぶむ▼「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」。この俳句を刊行物に載せることを、さいたま市の公民館が拒否した。世論を二分する問題だからだという。当初は、市の意見と誤解されないよう配慮したとの説明もあった。作者の名前も出るのに、である▼憲法や原発の問題で講演をやめようとしたり、展示を拒んだり。時の政権を刺激しそうなことは極力しない。公職者らの上目遣いが相次ぐ。意見がわかれ、議論をかわす。民主主義の面倒臭さをすっ飛ばすなら時代は逆流する▼あの夏の8月16日、風太郎は敗因を分析し、記した。日本人は「なぜか?」という問いを持たなかった、と。いま、ドングリになれという声には、なぜかと問い返そう。「個」であるために。
小国川問題 最上小国川流域環境保全協議会 会長へアユ研究者が意見書提出
本日8月1日、最上小国川の清流を守る会 共同代表 高桑順一氏、NACS-J自然保護協会 評議員 出羽三山を守る会 佐久間憲章氏 山形県議 草島 の3名で、最上小国川保全協議会の調査内容について、アユ研究者による意見書を最上小国川流域環境保全協議会 会長である原慶明氏に午前10時にメール提出。また午後3時に山形県県土整備部 河川課へ提出しました。その後、県庁記者室で記者会見をおこないました。
提出したのは以下のものです。
アユ研究55年の日本の第一人者、川那部浩哉先生を筆頭に、実際に流水型ダムの先例である益田川ダムの影響調査をしている竹門康弘先生、5月のシンポジウムで益田川程度の低濁度の濁りで実際の河川で漁獲高が大幅に減少した事例を発表してくださった朝日田 卓先生、「ここまでわかった鮎の本」http://hito-ayu.net/index.html などで知られる高橋勇夫先生が、1ヶ月半を費やして調査データを検証して協議していただいた結論です。
これは絶対に無視できない 「科学的な論証」であります。
最上小国川流域環境保全協議会
会長 原 慶明 殿
「第12回最上小国川流域環境保全協議会資料(2013年11月21日 山形県)」のうち、
アユを中心とする調査内容に関する意見書 (要約版)
川那部 浩哉(京都大学名誉教授)
竹門 康弘(京都大学防災研究所准教授)
朝日田 卓(北里大学海洋生命科学部教授)
高橋 勇夫(たかはし河川生物調査事務所代表)
1. 意見書提出のいきさつ
2014年5月27日、最上小国川流域環境保全協議会会長原慶明さんは、山形県議草島進一さんの質問に対し、「最上小国川環境影響調査委員会の検討内容に欠けているファクターは何なのかを教えて欲しい」と述べた。草島さんは、「第12回 最上小国川流域環境保全協議会 資料」(以下、資料と呼ぶ)を6月12日に上記4名に送り、とくにそのうちの47~92ページについて、「意見が欲しい」と要請した。
この意見書は、この依頼を受けた4名が当該資料を検討し、それに対する意見を整理したものの要約版である。
2. 第12回 最上小国川流域環境保全協議会資料の問題点
1) 調査の目的や方法が吟味されていない
個々の調査項目について具体的な目的がどこにあるのか明白ではなく、また想定される目的に対して調査方法が相応しいかどうかがほとんど吟味されていないと判断せざるを得ない。
具体例 「水産的重要種」であるアユの餌であるとする付着藻類や細菌については、種組成・細胞数・乾燥重量・クロロフィルa量・強熱減量などをばらばらに調べたのみで、同時に調査したアユの「はみあと率」との関連性がまったく検討されていない。しかも細胞数以外の項目はダムの影響を検討する材料としては一切使われていない。また、「堆積砂の挙動調査」や「洪水時の剥離」に関する検討過程においても、河床型や礫径によって相違する可能性が考慮されていない。
2) 限定的な調査データから逸脱した結論が導かれている
調査そのものは限定的な条件下で行われているにもかかわらず、そのことを無視して、結論が導き出されている。
具体例 付着藻類は一貫して拳大の石礫から採取されているが、このような小さな石は小規模な洪水でも藻類の剥離が起きやすい。したがって、付着藻類調査は「藻類が剥離しやすい状況にあった小さめの石礫を選択的に採取して、その剥離状況を調べた」ことになる。このような方法に基づいて行われた付着藻類調査から言えることは限定的であり、この分析結果から、「50m3/s 程度の流量が発生すると、ほとんどの付着藻類が剥離する」という考察を導き出すことは非科学的である。さらに、それを根拠とした「付着藻類の剥離は、ダムあり・なしとも同様に生じると考えられる」という結論も導き出すことはできない。
3) 各調査に結びつきがない
調査がそれぞれ「ばらばら」に行われているうえに、それらを複合的・総体的に結びつけようとせず、言わば「単純な足し算」によって「考察」され、「結論」なるものが導かれている。
具体例 「各調査地点の河床状態はアユ漁場として良好な状態にあると推察される」とまとめられているが、アユの多さを表現する「はみあと率」は地点によってかなりの差がある。アユの漁場として評価するのであれば、河床状態調査、はみあと率ならびに付着藻類調査の時期や地点を合わせておくことが不可欠であるが、それすら行われていない。
4) アユそのものに関する調査や検討が全く存在しない
アユに対する影響を検討するものであるにもかかわらず、アユそのものに関する調査・検討は何一つ行われていない。仮に「餌環境への影響は軽微である」ということが事実であるとしても、アユの棲息が充分に成立するためには、他のさまざまな環境条件が必須であるが、それらの検討が全くされていない。アユの実際の分布からは「アユ漁場として良好な状態にある」というような単純な結論を導くことはできない。
3. 最上小国川流域環境保全協議会への提言(今後の調査に向けて)
小国川で計画されている流水型ダムはピークカット率が高いため、洪水時の堪水域の上流部に堆積する礫経の大きな土砂が下流へ供給されにくくなり、洪水の減水時や小出水時には堤体近くに堆積する砂泥のみが流出すると予測される。このため、①ダム下流域の河床更新度の低下と糸状藻類等の繁茂、②ダム下流へのシルトの流出による濁水発生と河床環境の悪化、③ダム下流へ供給される有機物組成の変化などを通じて、アユの餌環境やサクラマスの産卵環境の悪化が懸念される(サクラマスの産卵場が、ダム建設予定地〜下流1.5kmの範囲で発見されている)。これらは、岩手県のレン滝ダム、外枡沢ダム、島根県の益田川ダムなどの調査で得られている知見から明白と考えられる。
上記のようなピークカット率の高い流水型ダムによって高い確率で起こると予想される影響に関しては、これまで全く調査されておらず、全く検討もされていない。したがって、今後これらの項目について詳細な調査を行い、影響をつぶさに検討することが必須である。
一般に、「ある事業等が環境にいかなる影響を及ぼすか、またその程度はどれほどか」を考えることは、それに疑問を持ちあるいは反対する人びとに対して、科学的な資料とそれに基づく具体的な判断とを提示し、その論議に供するための第一歩である。今回の「調査」と「結論」は、残念ながらそれに全く値しない。今後、最上小国川流域環境保全協議会の「資料」とそれに基づく「結論」がそれに堪えうるものとなることを希望し、そのことを強く要請する。
以上
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詳細版
最上小国川流域環境保全協議会
会長 原 慶明 殿
「第12回最上小国川流域環境保全協議会資料(2013年11月21日 山形県)」のうち、
アユを中心とする調査内容に関する意見書 (詳細版)
川那部 浩哉(京都大学名誉教授)
竹門 康弘(京都大学防災研究所准教授)
朝日田 卓(北里大学海洋生命科学部教授)
高橋 勇夫(たかはし河川生物調査事務所代表)
1. 意見書提出のいきさつ
2014年5月27日、最上小国川流域環境保全協議会会長である原慶明さん(山形大学名誉教授)は「アユの餌環境 流水ダム」という演題で公開講演を行った。講演後における草島進一さん(山形県議会議員)との質疑の中で、原会長は「最上小国川環境影響調査委員会が出した調査において、欠けているファクターは何なのかを教えて欲しい」と述べた*1。そのために草島さんは、「第12回 最上小国川流域環境保全協議会 資料」*2(以下、資料と呼ぶ)を6月12日に上記4名に送り、とくにそのうちの47~92ページについて、「意見が欲しい」と要請された。
この意見書は、草島さんから依頼を受けた4名が当該資料を検討し、それに対する意見を整理したものである。
2. 第12回 最上小国川流域環境保全協議会資料の内容に関して
2-1) 付着藻類調査(資料47-52p)に関して
この調査の「目的」がそもそも何なのかが、これでは判然としない。また「調査方法」においても、「早瀬」・「平瀬」とのみあるだけで、その具体的場所も状況も記載されていない。しかしながら、「付着藻類」の質や量がごく狭い場所でも互いに異なることは、広く知られている事実である。また、1箇所において何個の標本を採取したかも記載されていない。疑って言えば、各1標本であった可能性が高く、それでは生態的調査としては、ほとんど意味のないことも周知の事実である。また、2013年は僅かに1回の調査であり、他の年についても調査日は各年2~5回程度で、しかもその日は「任意」に選ばれているように見える。アユの棲息環境の状態を、後に書かれているようにダムなどとの関係において把握したいのであれば、少なくとも増水・洪水・渇水とその継続時間などを考慮して、その都度連続して調査を行い、その結果を明らかにする必要がある。
さらに細かいことに言及すれば、例えば52pの表において、その時期の各最多優占種の比率のみを示す意味は明らかではない。また「全細胞数に対する優占種の割合」との文言からすれば、これは細胞数における百分率と想像されるが、生物量などでの検討も必要であろう。さらに、「6月~9月頃は、藍藻類のHomoeothrix属藻類が優占し、それ以降は珪藻が優占する傾向がある」と結論づけているが、これは表からは素直には導きがたい。アユの摂食によって珪藻類の比率が減少し、藍細菌類の比率が増加することは、近年知られるようになっているから、そのようなことを何らかの意味で導きたいのであれば、藍細菌と珪藻との比率をむしろ示すべきであったろう。また「はみあと率」なるものも、当該石の表面のはみあとの数なども記されておらず、この場合においても、科学的調査における方法記載にはなっていない。
この調査が、最終的にはアユへの影響を判断するために行われたものであれば、アユの多さの目安となる「はみあと率」とアユの主餌料である付着藻類の各分析項目との関連性がまったく検討されていないのはなぜか。そのような基本的な分析さえ行わず、最終的な結論を「アユの採餌環境に対するダムの影響はほとんどないものと考えられる(92p)」とすることは、危険このうえもないことである。
2−2) 河床状態調査(資料53-57p)に関して
調査は2013年11月の1回だけのようで、また場所の詳しい記載もなく、それらの問題点は先に記したものと同様である。ついでに記せば、この場所は先の藻類調査の場所とも異なっていて、互いに「独立」に選ばれたものと受け取れる。方法も明白には書かれていないが、文章と図から判読してみると、底に重なっている石のうちいちばん表面のものだけについて、はまり石・浮き石を判別し、その下にあるものについては考慮していないように受け取れる。しかし、出水・洪水の折りはもちろんのこと平水時においても、底の石や砂礫が動くのは周知の事実であり、それは石の重なり状態を含め底質の状態によって大いに異なるものだ。アユの棲息環境として、「付着藻類」の状況を把握したいのであれば、このような配慮のもとでの調査が必須である。なお、「上流域2地点では、(中略)下流域(3地点か?)と比較して石の大きさは小さい傾向が見られた」とあるのは、資料53pの地図を瞥見する限り、その両地域の流程地形からみて当然と推測される。ここでも先に指摘したように、「地点」の中の個々の調査点の詳しい記載がなければ意味のないことは、ここからも明らかである。
「各調査地点の河床状態はアユ漁場として良好な状態にあると推察される」とまとめられているが(資料p57)、アユの多さを表現する「はみあと率」は地点によってかなりの差が生じており、アユの実際の分布からは「アユ漁場として良好な状態にある」というような単純な結論は導けない。基本的なことであるが、アユの漁場として評価するのであれば、河床状態調査とはみあと率や付着藻類関連の調査は時期や地点を合わせておくべきで、そうすれば、アユの生息環境をもう少し体系的に評価できたと考えられる。このように、本調査はきわめて断片的で、これが意図的でないとすれば、最上小国川流域環境保全協議会においては調査計画そのものが十分に審議されてこなかったと判断されてもしかたがないと考えられる。
2−3) 「付着藻類の影響検討について(資料58-92p)」に関して
2-3−1) 剥離(資料60-63p)に関して
資料では、ダムサイト地点での流量が55・54・24・20・18・8m3/ secであった6洪水の後に総細胞数などを調査し、洪水以前のそれと比較した結果が示され、「50m3/s程度で、末沢川合流点から下白川橋まで、付着藻類層細胞数が3%以下となっていた」としている。そして、「ダム地点で50m3/s程度の流量が発生すると、ほとんどの付着藻類が剥離する」とまとめられている(資料61p)。さらに、「影響評価」に関する結論は、「3年に1回程度以上の洪水ではダムあり・なしに係わらず、付着藻類はほとんど剥離すると考えられる。2年に1回程度以下の洪水では、ダムあり・なしで流量変化が小さいため、付着藻類はダムなしの場合と同様の状況を維持すると考えられる。 → 付着藻類の剥離は、ダムあり・なしとも同様に生じると考えられる」となっている。
洪水前後の総細胞数の表(資料60p)では、確かに50m3/ sec以上の流量を示した2回の洪水においては、4地点ともに0-3%の残存率になっている。それに対して例えば下白川橋での残存率は、20-25m3/ secの流量の場合でも3-9%に過ぎず、8m3/ secの流量の場合でも29-57%の残存率となっている。さらに言えば、残存率「51%~」としてまとめられている「総細胞数残存率」の実際の数字を表から拾ってみると、871%,337%,257%,215%,219%,59%,57%と非常に幅広く、これが意味するところを考えれば、ここで言う「残存率」なるものはほとんど、いや全く意味が無いものである。とにかく、「付着藻類の剥離は、ダムあり・なしとも同様に生じると考えられる(資料63p)」という結論は、これらの調査結果からは全く出てこないと判定できる。
付着藻類の採取は、調査初期から一貫して「拳大の石礫にコドラートを当てて、ブラシではぎ取る」というやり方で行われている(調査状況写真を見ると実際には採取した石礫は拳大~径20cm程度であり、実のところはあまり一貫性もない)。藻類の剥離は礫の大きさ(洪水による動き易さ)に大きく影響を受け、一般的にいえば、小さい礫ほど藻類が剥離しやすい傾向にある。小国川の河床材料のほぼすべてが「拳大の石礫」構成されているわけではもちろんなく、他の調査状況写真を見ると小国川の河床には採取した石礫よりも大きな石はごく普通に観察されるし、河床材料調査(資料53-57p)においても、「径25cm以上が多く、アユの生息に好適」と結論づけられている。したがって、付着藻類調査は「藻類が剥離しやすい状況にあった小さめの石礫を選択的に採取して、その剥離状況を調べた」と受け取られても、弁明することの困難な状態になっている。したがって、このような方法に基づいて行われた付着藻類調査から言えることはほとんどなく、この分析結果から、「50m3/s 程度の流量が発生すると、ほとんどの付着藻類が剥離する」という考察(資料61p)は、完全に非科学的である。さらに、それを根拠とした「付着藻類の剥離は、ダムあり・なしとも同様に生じると考えられる(資料63p)」という結論も導き出すことはできない。
2-3−2) 生育基盤(資料64-87p)」に関して
①洪水時の河床材料の変化
資料では、洪水時の河床材料の変化を洪水の大きさ別に予測し、「付着藻類の生育に対する影響は小さい(資料87p)」ことの根拠としているが、検討に用いられたデータはシミュレーション等により得られたもので、他の流水型ダムにおける調査結果に基づくものではない。もしシミュレーションや実験結果を用いるならば、その条件設定が妥当なものであることを科学的に証明しなければならない。さらに「影響が少ない」とするなら、その程度がどれくらいなのかを予想される魚類資源の減少率等の具体的数値で示す必要がある。
資料では、洪水時の河床材料の変化を洪水の大きさ別に予測し、いずれのケースでも短期間で洪水前の状態に戻る、または変化がないとされている。しかし、同じ流水型ダムである益田川ダム(2005年竣工)では径100mm以上の礫がダム上流(貯水池内)にすでに堆積しており、定期的に礫をダム下流へ人為的に移動することが検討されている(2014年5月26日 京都大学防災研究所角哲也教授 最上町での講演*3)。このような既設の流水型ダムにおける土砂の堆積状況から考えると、このシミュレーションの妥当性には大きな疑問がある。
②平水時における堆積砂の挙動調査に関して
平水時の砂の挙動に関する現地実験の場所として選択された「平瀬」とは通常、「浮き石」が少なく、表面の比較的平らな「はまり石」が主になっている場所を言う。そのような場所を「堰き止め」、一様な「4号珪砂」だけを沈下させての測定は、著しく流下し易い条件での実験結果に過ぎず、この川の通常状態を再現したものとは言えない。野外での充分な観察に基づいて実験を行わなければならないことは、生態学のごく初歩の常識であるが、それは全く満足されていない。
砂の挙動に関する現地実験では、平瀬が「アユの主な採餌場」とされ、そこでの野外実験の結果から、「仮に砂が過剰に供給されたとしても、アユが採餌する面はほとんど被覆されず、日常的な流量で流下することから、付着藻類の生育に対する影響は小さい」としている(資料87p)。しかし、小国川において平瀬がアユの主な採餌場となっているということの根拠は示されていない。一般的にアユの生息場所は瀬だけでなくトロ、淵まで様々な河床型に及び、それぞれの生息場で摂餌(採餌)行動が行われている。小国川でも実際にそれぞれの河床型がなわばりアユ(一定の場所に定着した個体)を釣る友釣りの漁場となっている。環境影響調査委員会が行った実験は比較的流速の速い(影響の出にくい)平瀬のみで行われており(資料70-83p)、なぜ、より影響が強く出ると予想される淵やトロでの実験も行なったうえで影響を判定しなかったのか理由が分からない(平瀬を選んだ根拠はアユの主な採餌場ということらしいが、それは事実と反する)し、現在の検討結果は正しいものかどうかさえ疑わしい。また、この実験の組み方では「影響が出ないようにセットされた」と言われても致し方ないのではないだろうか。
③「河床形状」について
方法も結果も、少なくともこの「資料」内ではほとんど示されておらず、論評することもできない。しかしながら、87pの影響評価では「ダムあり・なしでの河床形状の差異は小さいと考えられる ⇒ 「瀬や淵の減少・拡大等の河床形状の変化による影響は小さい」と考えられる」となっている。しかし、これを導いた「根拠」を見つけることは、まことに残念ながらできなかった。
そもそもダム堤体建設予定地から下流の流程は、河床材料変化の数値計算で条件としたような一様の河床ではなく、各所に岩盤が露出した河床であることから、環境変化の実態を把握するにはほとんど役に立たないと考えられる。さらに、小国川で計画されているダムは、既存の流水型ダムに比べてピークカット率(洪水調節率)が高いことから、洪水時の堪水域の上流部に堆積する礫経の大きな土砂が下流へ供給されにくくなり、洪水の減水時や小出水時には堤体近くに堆積する砂泥だけが流出することが予測される。したがって、ダム下流の河床形状への影響を評価するためには、このような仮説に基づいて、現場の河床地形の境界条件を加味した予測をやり直す必要がある。
2-3−3) 結論(資料92p)」に関して
ダムの影響は、「①付着藻類へのダムの影響はほとんどないものと考えられる。②「特に、アユが主に採餌する平瀬の巨礫上面の付着藻類に対する影響は小さく、アユの採餌環境に対するダムの影響はほとんどないものと考えられる。」と結論づけられた
繰り返しになるがこの結論は、それまでに提示された結果の分析からは、全く導き出せないものと考えられ、これへ導く「理屈」もまた、ほとんど示されていない。
2-3−4) 資料に書かれている内容に対する一般的意見
「付着藻類調査」や「河床状態調査」は、その場所や方法が明白に記載されておらず、また調査結果もその信頼性が確認できない状況にあり、いや、個々の調査に関する具体的な目的がどこにあるのかも明白でなく、またその目的を調査するに相応しいかどうかすら、ほとんど吟味されていないと、残念ながら判断せざるを得ない。すなわち、30年以上前にコンサルタント会社が、全くの<ルーティン=ワーク>としてやり、全面的な批判にさらされて撤回した「調査」を、彷彿とさせるものと言って良いのではあるまいか。
他の「重要な生きもの」の扱いについてはここでは言及しないが、少なくとも「水産的重要種」であるとして取り扱ったかに思われるアユについても、その餌であるとする付着藻類や細菌についての、種組成・細胞数・乾燥重量・クロロフィルa量・強熱減量などだけで、しかも後の3項目は考察材料としては一切使われていない。
また、「河床状態調査」なるものは、「アユの漁場として良好であるかを河川環境の面から評価するための基礎資料」とされているが、アユが棲息・利用する「河床型」をすべて調べているわけでもない。さらに、洪水による「剥離」や「堆積砂の挙動調査」においても、「河床型」により相違する可能性すら考慮されておらず、また先に記したように、いかなる目的に対しての実験なのか、少なくとも「明白」ではない。
ダムの設置によって、それより下流の河床形態が大きく変化することは、すでに良く知られている。「流水型ダム」であっても、大きい岩や石はダムで一旦貯留されるものであり、もしもそれすらがダムを「通過」するとすれば、治水のためのダムを作る「意義」や「理由」はないことになる。果たしてしからば、砂礫の一部は通過してその下流部に堆積するにしても、大型の岩や石は上流からは補給されず、ダムの下流部においては、流出だけが生じることは、ほとんどすべてのダムで現実に見られている現象である。それが、アユの餌となる「付着藻類」に大きい影響を及ぼさないものかどうか、少し想像するだけでも明白である。
ついでに付け加えれば、例えば、出水・洪水前後の「付着藻類」の調査、「河床状態」の調査、さらには「剥離」・「生育基盤」・「濁り」の解析などは、他の地域にある既存の「流水型ダム」の上・下流において行うことによってこそ、ある程度意味のあるものとなる。そのような河川における調査が今回の「資料」において皆無であることは、極めて不思議であり、かつ異例のことと考えられる。このような既存の河川における様態は、もちろんそのままでこの小国川に当てはめられるものではないが、それを参考にした考察の無いのは、極めて不自然なことである。
2-3−5) この「資料」のさらに致命的な欠陥
この調査は、すでに各個所で指摘してきたように、ほとんどすべての内容において大きい問題があり、またその「結論」なるものは、これらの「調査結果」から「科学的に導かれた」ものとは到底言えない。
しかし、それにも増してこれが致命的と判断できる理由は、調査がそれぞれ「ばらばら」に行われているうえに、それらを複合的・総体的に結びつけようとせず、言わば「単純な足し算」によって作られているところにある。いわゆる「環境問題」が、個々の科学分野から科学哲学に至るまでの広い範囲に深刻な反省をもたらしてきたことは、すでに周知の事実であるが、この「資料」の中にこのような視点を見つけることは出来なかった。
さらに不思議極まりないのは、アユの棲息に及ぼす影響調査として、アユの通常時の餌である石面付着生藻類・細菌の問題だけが採り上げられ、アユそのものに関する調査・検討が全く行われていないことである。仮に、アユの餌に関して「影響が少ない」としても、それだけで「アユに関して問題がない」、あるいは「軽微である」と判断することは、単純な理屈のうえから言っても、あり得ないことである。
また当面の「環境改変」のことで考えるならば、その結果として、どのような影響がいわゆる「生態系」に生じるかについては、考えられるあらゆることを考察し、しかも「影響がある」と想定してみることが大切である。これは周知の通り、近代統計学に言う「帰無仮説」の原理でもある。
極めて単純な事例を挙げれば、ダムにおける「魚道」の問題がある。ほぼ40年ぐらい前まで、いや、あるいは30年前であってもまだ、「魚道の遡上率」とは、魚道のもっとも下の「ます」に入った魚が、いちばん上の「ます」に入る比率を示すものと、誤って理解されていた。しかしながら、その値が仮に100%に近いものであっても、下流から遡上してきた魚が、その魚道のいちばん下の「ます」を発見する比率とそれを捜すのに要する時間の問題、魚道を通過した後にそのダムの湛水域を通過するあいだに起きる障害、例えばどれほどの長時間を要するかの問題、などなどを考慮する必要があり、魚道遡上の「達成率」とは、魚道の無い状態の場合と比較しなければ正しいものにはならない。また、魚道の周辺には魚食性の鳥類などが集って来るのが通常で、魚道の遡上に「辛苦している」魚を捕食する量がかなり大きいことは周知の事実であり、また湛水域における摂食あるいは捕食の増減の問題も、計算に入れなければならない。こうなると、魚道の達成率は、かなりの程度に低いものにならざるを得ないのであり、そのことは今ではかなり広く知られているところである。
今回の小国川「ダム問題」に関係して一つだけ触れるならば、その「流水型ダム」の「穴」の部分は、何回かの出水ないし洪水によって、どのような状態になると、この「資料」の作成者は予測したのであろうか。大型の岩・石のほか材などの蓄積は、少なくとも「ある程度」は起こるに相違ない。それをもし「人為的に取り除く」とするならば、その方法等についての「具体的提案」が少なくともなされ、またそれによる効果が慎重に検討されなければならない。また、それらの物体の蓄積状態において、アユなどの魚はその場所を自由に、すなわちこのダムの存在しない状態と同様に、遡上・降下できるかどうか、これらは考察の対象にしなければならない筈である。両側回遊魚以外の「純淡水魚」もまた、それぞれの生活史に応じて、川を遡上・降下することは、これまた今や周知の事実であるから、アユなどだけでなくそれらの魚に対する影響も、同じく考察の対象にする必要がある。
そもそも、まだ人智には限りがあり、あらゆる可能性を考えようとしても、多くの場合考慮の対象に拾い上げることの出来ない影響は、質量ともに極めて大きいものである。とくに「環境改変」問題においては、従来のほとんど全ての事例において、事前予測を越えた問題が結果として生じてしまっていることを、充分に認識しなければならない。
その点では、「影響は小さいものと考えられる」とか、「影響はほとんどないものと考えられる」などと記すことは、重大な誤りになる可能性がたいへん大きく、いや、それ自体が重大な誤りであり、また事後になって、「この程度の影響は<小さいと>と言った範囲である」とか「<ほとんどない>の範囲である」とかと、「責任回避」の重大な要因になってしまったのが、現在までの一般的な「姿」であり、また今後もその可能性が極めて高い。
したがって「生態系」ないし環境への影響評価は、ありとあらゆる「想定される事象」を複合的・総体的に考えたうえで、せめて「いくら大きく見積もっても、xx程度である」というように、結論づけなければならない。「想定外」などとの「ことば」を今後は使うことのないよう、特に気をつける必要がある。
3. 最上小国川流域環境保全協議会への提言(今後の調査に向けて)
最上小国川流域環境保全協議会第2回中間とりまとめ 平成26年5月」において「④動植物重要種および魚類(アユ等)の採餌環境については、(中略)環境保全協議会で審議した方針に基づき、継続して調査を行っていくことが必要である」と書かれている。この文章の意味するところは「明晰判明」とはとても言えるものではないが、アユに関してだけ言っても、アユそのものに対する影響の研究を含め、少なくとも「資料」で見られたような「環境保全協議会で審議した方針」を全面的に越えて、優れた調査とそれに基づく科学的な考察・論議がぜひとも必要である。
小国川で計画されている流水型ダムはピークカット率が高いため、洪水時の堪水域の上流部に堆積する礫経の大きな土砂が下流へ供給されにくくなり、洪水の減水時や小出水時には堤体近くに堆積する砂泥のみが流出すると予測される。このため、①ダム下流域の河床更新度の低下と糸状藻類等の繁茂、②ダム下流へのシルトの流出による濁水発生と河床環境の悪化、③ダム下流へ供給される有機物組成の変化などを通じて,アユの餌環境やサクラマスの産卵環境の悪化が懸念される(サクラマスの産卵場が、ダム建設予定地〜下流1.5kmの範囲で発見されている)。これらは、岩手県のレン滝ダム、外枡沢ダム、島根県の益田川ダムなどの調査で得られている知見から明白と考えられる。また、わずかな濁水でも大きな影響を与えることは、岩手県の早池峰ダムの調査結果などから明らかとなっており(流水型ダムとは条件が異なるものの、2-6 mg/Lでも大きく影響し、アユやウグイの漁獲量が1/5以下に激減)、最上小国川で施工中の仮設備(トンネル)工事で行っている濁水処理レベル(3 mg/L)でも影響が出る可能性がある。また、いくつかの砂防堰堤(岩手県中井砂防堰堤、神楽砂防堰堤等)で報告されているような、堆積物の大量流出による下流域の魚類生息環境悪化も懸念される。
流水型ダムが建設された場合の付着藻類への影響に関して、最上小国川環境影響調査委員会において「アユの採餌環境に影響なし」と結論づけた。しかし、長期的にみると、ダムによるピークカットのために河床の攪拌頻度・強度が低下し、大型糸状緑藻や蘚苔類が河床を覆うようになる可能性が高く、その場合にはアユの餌場そのものが失われ、「アユの採餌環境に悪影響が出る」可能性は極めて高い。また、大型糸状緑藻や蘚苔類が河床に繁茂しやすくなると、アユの生息場そのものの消失につながる。実際、大型糸状緑藻の繁茂は全国各地のダムのある(つまり河床の攪拌頻度・強度が低下した)河川で普通に見られ、漁業に大きな悪影響が出ている。このようなピークカットによる河床の攪拌頻度・強度が低下することで起こりうるアユおよびアユ漁への影響に関しては、まったく検討されておらず、今後の調査に組み込むとともに、アユおよびアユ漁への影響について慎重に検討することが必要である。
ヤマメ・サクラマスの集結する大きな産卵場がダム建設予定地〜下流1.5kmの範囲でも発見された。小国川全域が国の準絶滅危惧種に指定されたサクラマスの産卵床である。しかし、それらの産卵床は、河床に卓越する岩盤の上に堆積した石礫や砂利によって形成されているのが現状である。したがって、小国川ダムによる土砂供給様式の変化は、とおり一辺の一次元河床変動計算ではなく、現場の境界条件に基づいたきめ細かい予測計算によって影響の評価をし直す必要がある。
以上のように、ピークカット率が高い小国川ダムでは、洪水攪乱規模の減少を通じて、下流河川の生態環境は確実に変化すると考えられる。その結果、ヤマメ・サクラマスの産卵床やアユの生息環境への影響や、鮎の品質を低下させる可能性は否定できない。長期的な観点から経済損失を検討し、事業計画の経済効果の計算に組み入れることが必要である。
一般に、「ある事業等が環境にいかなる影響を及ぼすか、またその程度はどれほどか」を考えることは、それに疑問を持ちあるいは反対する人びとに対して、科学的な資料とそれに基づく具体的な判断とを提示し、その論議に供するための第一歩である。今回の「調査」と「結論」は、残念ながらそれに全く値しない。今後、最上小国川流域環境保全協議会の「資料」とそれに基づく「結論」がそれに堪えうるものとなることを希望し、そのことを強く要請する。
以上